大阪地方裁判所 平成10年(ワ)13281号 判決 1999年10月15日
本訴原告
新生食品株式会社
ほか一名
本訴被告
向井辰雄
ほか一名
反訴原告
末崎タミ子
反訴被告
新生食品株式会社
ほか一名
主文
一 本訴原告らは、本訴被告向井辰雄に対し、別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務を負わないことを確認する。
二 本訴原告らの本訴被告末崎タミ子に対する訴えを却下する。
三 反訴被告らは、反訴原告末崎タミ子に対し、連帯して金四八一万九八八六円及びこれに対する平成一〇年六月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 反訴原告末崎タミ子のその余の反訴請求を棄却する。
五 訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを一〇分し、その二を本訴原告らの負担とし、その八を本訴被告らの負担とする。
六 この判決は、第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 本訴
本訴原告らは、本訴被告らに対し、別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務を負わないことを確認する。
二 反訴
反訴被告らは、反訴原告末崎タミ子に対し、連帯して金二九二七万九四三八円及びこれに対する平成一〇年六月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 訴訟の対象
民法七〇九条、自賠法三条
二 争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実
(一) 交通事故の発生(弁論の全趣旨)
<1> 平成七年一二月二三日(土曜日)午後七時八分ころ(晴れ)
<2> 大阪府泉佐野市栄町六番八号先交差点
<3> 本訴原告野手宏昭(以下、原告野手という。)は、普通乗用自動車(和泉三三と七六二)(以下、原告車両という。)を運転中
<4> 本訴原告新生食品株式会社は、原告車両を所有している。
<5> 本訴被告末崎タミ子(以下、被告末崎という。)(昭和五二年二月三日生まれ、当時一八歳)は、普通乗用自動車(和泉五四ち九八三一)(以下、被告車両という。)を運転中
<6> 本訴被告向井辰雄(以下、被告向井という。)(昭和一五年五月一四日生まれ、当時五五歳)は、被告末崎の父であるが、被告車両の助手席に同乗していた。
<7> 直進中の被告車両と右折中の原告車両が衝突した。対面信号はともに黄色信号であった。過失割合は、被告末崎が四〇、原告野手が六〇とすべきである。
(二) 責任など(弁論の全趣旨)
原告野手は、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。
本訴原告新生食品株式会社は、原告車両の所有者であり、自賠法三条に基づき、損害賠償義務を負う。
(三) 被告向井の損害(弁論の全趣旨)
<1> 被告向井が負った傷害
被告向井は、頭部打撲、頭部顔面部切挫傷、出血性ショックの傷害を負った。
<2> 被告向井の治療
被告向井は、次のとおり、治療のため、入通院した。
ⅰ 市立泉佐野病院に、平成七年一二月二三日から同月二五日まで三日入院した。
ⅱ 県立西宮病院に、同日から平成八年一月一二日まで一九日入院した。
ⅲ 同病院眼科に、同月一六日から同年五月七日まで(実日数六日)通院した。
ⅳ 同病院内科に、同年一月一八日から同年二月六日まで(実日数四日)通院した。
<3> 被告向井の被った損害
ⅰ 治療費 一一〇万二七一〇円
ⅱ 入院雑費 二万七三〇〇円
ⅲ 慰謝料 五五万〇〇〇〇円
小計 一六八万〇〇一〇円
過失相殺後(原告ら六〇%) 一〇〇万八〇〇六円
既払い 一一九万三六五〇円
既払い控除後 〇円
(四) 被告末崎の損害(弁論の全趣旨)
<1> 被告末崎が負った傷害
被告末崎は、頭部外傷、顔面裂創、口腔内口唇裂創、左角膜損傷、脳浮腫の傷害を負った。
<2> 被告末崎の治療
被告末崎は、次のとおり、治療のため、入通院した。なお、このうち三ノ輪病院では、額、左下顎、上眼瞼、右下顎部の肥厚性瘢痕に対する形成術を施行した。
ⅰ 羽原病院に、平成七年一二月二三日から同月二五日まで三日入院した。
ⅱ 県立西宮病院に、同日から平成八年一月一二日まで一九日入院した。
ⅲ 同病院に、同月一三日から同月三〇日まで(実日数二日)通院した。
ⅳ 県立尼崎病院形成外科に、同年二月八日(実日数一日)通院した。
ⅴ 大阪警察病院形成外科に、同年二月一三日(実日数一日)通院した。
ⅵ 三ノ輪病院に、同年一二月二〇日から同月二五日まで(実日数四日)通院した。
ⅶ 三ノ輪病院に、平成九年二月二八日から同年三月一日まで(実日数二日)通院した。
ⅷ 三ノ輪病院に、平成九年六月一一日から同年七月三〇日まで(実日数四日)通院した。
ⅸ 三ノ輪病院に、平成一〇年六月一〇日(実日数一日)通院した。
<3> 被告末崎の被った損害のうち傷害分
ⅰ 治療費 一七七万八八七五円
ⅱ 入院雑費 二万七三〇〇円
ⅲ 入通院慰謝料 六〇万〇〇〇〇円
既払い 一七八万四七一五円
三 争点
(一) 争点
被告末崎の後遺障害
(二) 被告末崎の主張
被告末崎は、三ノ輪病院で三回にわたり形成手術を受け、平成一〇年六月一〇日、症状固定したが、多数の顔面瘢痕の後遺障害が残った。この後遺障害は、等級表七級に該当する。
したがって、損害は別紙一のとおりである。
(三) 原告らの主張
被告末崎に顔面瘢痕が残ったとしても、化粧をすれば人目につかず、逸失利益は認められない。
第三争点に対する判断
一 証拠(乙一、二、被告末崎の供述)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 被告末崎の顔には、形成手術を終えた後でも、次のとおりの醜状が認められる。
左眉毛の左端から前頭部にかけて長さ数cm、幅数mmの線上痕、左の額に長さ数cm、幅数mmの線上痕数本、左眉毛の右端付近に長さ数cm、幅数mmの線上痕数本、左眉毛付近に点状の多くの瘢痕、唇の右端から顎にかけて長さ数cm、幅数mmの線上痕、唇の右端の上部付近に長さ数cm、幅数mmの線上痕、唇の左端の下部付近に長さ数cm、幅数mmの線上痕などが認められる。
まとめると、これらの線上痕は、左の眉毛の付近と唇の右端が目立つ。また、線上痕の形状は、ほとんどが、赤く腫れあがっているわけではなく、顔面のほかの部分と比べて、白い線状の痕である。ただし、長く幅があるものがあったり、点状のものが多くあったりするため、外見上明らかに認めることはできる。
(二) 被告末崎は、本件事故当時、短大の学生であった。
事故後の平成九年三月に短大を卒業した。このときには、まだ形成手術を終えていなかった。
スチュワーデスを希望していたことから、大手航空会社の系列会社が募集していたグランドホステスの試験を受けた。
筆記試験である二次試験までは合格できたが、面接試験である三次試験で不合格になった。このときは、形成手術を終える前であり、顎の線上痕部分を覆っていたほか、眉毛の線上痕部分は髪で隠していた。
その後、同年八月、ほかの大手航空会社の系列会社のグランドホステスとして採用され、現在も、そこで勤務している。給料など待遇面で特に不利益な取扱いを受けていない。
今後については、顔に傷が残っていることなどもあり、スチュワーデスになるのは難しいと思っていて、グランドホステスの仕事を続けるつもりである。
(三) 現在、顔の線上痕のうち、顎の下の線上痕については、引っ張られる感じがする。
化粧を工夫すれば、ある程度は目立たなくすることができる。
二 これらの事実によれば、確かに、被告末崎の顔の線上痕について他人が醜いとまで思うかどうかは疑問があり、線上痕が原因で面接試験に不合格となったかどうかはわからないし、現在、就職して、一定の給料を得ている。
しかし、素顔では明らかに線上痕が認められ、人目に付く程度の線上痕である。また、被告末崎が希望した職種が接客業であることを考えると、顔の線上痕が面接試験による採否に影響を与えた可能性を否定できない。また、現在、一定の給料を得ているとしても、被告末崎の年齢、希望する職種、線上痕の形状を考えると、就労が制限されていると認めることが相当である。さらに、線上痕が多く、かなりの精神的苦痛があると思われ、これが就労に影響を与えないとも言い切ることはできない。
したがって、被告末崎には逸失利益が認められるというべきである。
三 そこで、後遺障害の程度を検討する。
線上痕は、数cmの長さのものもあるが、その多くは白色であり、必ずしもその程度がひどいとまではいえない。
また、被告末崎は、本人の努力もあろうが、グランドホステスの仕事をして、同僚とかわらない給料を得ている。
そうすると、被告末崎の線上痕は、後遺障害別等級表一二級の後遺障害に該当するというべきであり、労働能力喪失率は一四%と認められる。
また、期間は、症状固定時二一歳から四〇歳までの一九年間(ホフマン係数一三・一一六)と認めることが相当である。
したがって、逸失利益は、五三三万四八二八円と認められる。
四 後遺障害慰謝料は、前記事情を考慮すると、二六〇万円と認められる。
第四結論
したがって、原告らの被告向井に対する請求は、損害を既払いが上回っているから、債務がなく、理由がある。
原告らの被告末崎に対する請求は、被告の末崎の反訴請求に対する判決により争いが解決するから、確認の利益がない。
被告末崎の反訴請求については、損害は、別紙二のとおり認められる。
(裁判官 齋藤清文)
別紙 交通事故目録
(1) 交通事故の発生(弁論の全趣旨)
<1> 平成7年12月23日(土曜日)午後7時8分ころ(晴れ)
<2> 大阪府泉佐野市栄町6番8号先交差点
<3> 本訴原告野手宏昭(以下、原告野手という。)は、普通乗用自動車(和泉33と762)(以下、原告車両という。)を運転中
<4> 本訴原告新生食品株式会社は、原告車両を所有している。
<5> 本訴被告末崎タミ子(以下、被告末崎という。)(昭和52年2月3日生まれ、当時18歳)は、普通乗用自動車(和泉54ち9831)(以下、被告車両という。)を運転中
<6> 本訴被告向井辰雄(以下、被告向井という。)(昭和15年5月14日生まれ、当時55歳)は、被告末崎の父であるが、被告車両の助手席に同乗していた。
<7> 直進中の被告車両と右折中の原告車両が衝突した。対面信号はともに黄色信号であった。過失割合は、被告末崎が40、原告野手が60とすべきである。
10―13281 別紙1 被告末崎主張の損害
1 治療費合計 (177万8875円)
2 入院雑費 (2万7300円)
3 入通院慰謝料 (60万0000円)
4 逸失利益 3828万9064円
(1) 基礎収入は、賃金センサス290万5300円
(2) 労働能力喪失率56%
(3) 期間46年(23.534)
5 後遺障害慰謝料 1051万0000円
過失相殺後(原告ら60%) 2927万9438円
反訴請求額 2927万9438円
10-13281 別紙2 裁判所認定の損害
1 治療費合計 177万8875円
2 入院雑費 2万7300円
3 入通院慰謝料 60万0000円
4 逸失利益 533万4828円
(1) 基礎収入は、賃金センサス290万5300円
(2) 労働能力喪失率14%
(3) 期間19年(13.116)
5 後遺障害慰謝料 260万0000円
小計 1034万1003円
過失相殺後(原告ら60%) 620万4601円
既払金 178万4715円
既払金控除後 441万9886円
弁護士費用 40万0000円
合計 481万9886円